事例報告内容
【記述項目】
一般的名称 ポリジオキサノン縫合糸
販売名 エンドループ PDS II
製造販売業者名 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
購入年
事例の具体的な内容 先天性肺動静脈瘻の患者。胸腔鏡下で、胸腔鏡用自動縫合器を用いた右中葉の部分切除術としたが、中枢端はわずかに切離できていなかったため、直角鉗子で残存肺を把持し、エンドループという胸腔鏡用の結紮糸を用いて閉鎖、切離不十分部位を切離し標本を摘出した。切離外側端にも止血目的にエンドループを用いた結紮を行い、その後この結紮糸は切離している。止血、空気漏れのない事を確認後ブレイクドレインという柔らかなドレーンを挿入し手術は終了した。 術後2日目にドレーンは抜去でき創部を含め経過は良好であった。血液生化学検査では術後肝酵素の上昇を認めたが徐々に低下していた。また右頚部の腫脹と呼吸困難感を訴えたため頚部エコーを行い、内頸静脈の拡張を認めたが血栓はないことを確認した。腹部不快感の訴えがあったが当科医師が診察後軽快退院された。 翌日早朝、全身倦怠等を訴え救急外来受診緊急入院となった。血液生化学検査では肝酵素、CRP、白血球などの上昇を認め、心エコー、CTで著明な心嚢液貯留と腹水貯留を確認した。心タンポナーデの所見があり、心嚢ドレナージを行い血性心嚢液吸引除去後より頻脈はいったん改善された。しかし、その後心嚢液の再貯留があり胸骨縦切開アプローチによる緊急手術が行われた。心嚢を切開すると大量の血性心嚢液が排出され右心房に裂孔が認められた。肺切離部と縦隔胸膜(心膜)は癒着しておりエンドループの先端が胸膜を貫き心嚢内に突出していた。右心房の出血部位を縫合閉鎖し止血、残存肺の一部の切除し手術は終了した。術後大きな問題はないが、患者の不安は強く、リハビリを行い経過観察中である。
事例が発生した背景・要因 再入院後、CT画像的に胸水や腹水と異なる心嚢液であることは確認出来ていたが出血にいたる機序がわからぬままドレナージが行われた。手術のDVDを見直しても手術に起因する原因は思い当たらず、術中の鈍的損傷あるいは異所性子宮内膜症なども考えたが何れも説得力のあるものではなく原因究明は緊急手術にゆだねられた。エンドループの切離端が肺の再拡張とともに縱隔側に向き慢性刺激(心拍動)により心膜を貫き癒着したもの考えられた。その結果先端が右心房を損傷し出血をきたしたが心嚢内に出血することでエンドループ先端と右心房の間に距離ができ急激な経過とならなかったと考えられた。
実施した、若しくは考えられる改善策 1)エンドループは分厚い組織の結紮にも対応できるように太い糸が使用されており、同方向から鉗子を挿入し結紮糸を切離するため、結紮糸の切離面は斜めになる可能性がある。結紮糸を切離する際は別のポート孔からハサミを挿入し切離する。 2) エンドループは長めに切離する(5mm程度の短さでは組織を損傷しやすい)。 3)結紮部位に補強用の貼付剤を張るなどの対応も必要と考えられる。 4)手術でエンドループを使用する診療科に対し、事例の周知、注意喚起を行う(実施すみ)。 5)事例発生後、メーカーに報告している。今後学会などを通じて出来る限り全国の呼吸器外科医に問題提起をしていく予定。 当院の事例報告をメーカーに行った。その後、メーカー側から当院と同様事例が2例あったとの報告を受けたが、この2事例について情報公開をしていないとのことであった。メーカーは、この2事例を受け、添付文書の改訂を実施したとの事であったが、添付文書からは具体的な内容は把握できない。

事例検討結果
事例検討結果 当該事例については企業から薬事法に基づく不具合報告が行われており、当該製品の切離断端により、心膜が損傷を受けた可能性があると判断されている。なお、当該事例をうけ、当該製品の添付文書に切離断端による組織損傷の可能性について追記したところ。