事例報告内容
【記述項目】
一般的名称 麻酔回路セット
販売名 ポーテックス・麻酔導入セット
製造販売業者名 スミスメディカル・ジャパン株式会社
購入年
事例の具体的な内容 全身麻酔導入直後より換気困難となり、マスク換気から気管挿管に変更したが改善が見られず、一度抜管して声門を確認しながら再挿管を試みるがやはり改善なく、SpO2は40%前後に低下しており、アナフィラキシーによる気管支痙攣を考慮しアドレナリンの気管内投与を行った。換気困難の原因は患者側にあると考え、気管支ファイバーや経食道エコー等で原因検索を行ったがいずれも問題となる所見は得られなかった。SpO2はさらに20%未満に低下し、一時的に心停止に至ったが、胸骨圧迫とPCPSの開始により心拍はすぐに再開した。その後のSpO2は90%台に改善し、PCPSをECMOに変更した。病状が落ち着いたところで、原因検索の目的にアンビューバッグで換気を行ったところ問題なく換気することができた。麻酔器回路の異常を疑い調べたところ、吸気側の蛇管内腔が閉塞していることを発見した。その後は低酸素脳症の所見や症状もなく、10日後に再手術を受けられた。
事例が発生した背景・要因 ・麻酔科医は研修医と非常勤医師の2名が担当したが、コミュニケーションエラーから通常行われる麻酔器使用前点検が行われなかった。・通常は研修医が麻酔器(ドレーゲル ファビウス)の回路を組み立て、麻酔器使用前点検を実施する手順だったが、組み立て後に別の業務のため退室した。・非常勤の上級医は病院で通常行われている麻酔器のリークテスト機能を用いた点検ではなく、日本麻酔科学会「麻酔器の始業点検」に記載されている一般的方法のリークテストを行ったが異常を発見できなかった。・麻酔器のリークテストを実施していれば、今回の吸気閉塞は発見できていたが、麻酔学会が推奨している一般的なリークテストのみ実施されていたので閉塞は発見できなかった。・手術前確認のタイムアウトでは、麻酔科医から麻酔器使用前点検済の報告があったため、他のスタッフは麻酔器が正常に動作するものと理解していた。・COVID-19感染の既往歴から換気困難の原因は患者側にあると思い込んでいた。・人工呼吸器における換気困難の原因検索としてDOPEアプローチを周知していたが、麻酔器は対象外であった。
実施した、若しくは考えられる改善策 ・麻酔回路のチェックは、麻酔器に搭載されているチェックテスト(麻酔器使用前点検)を優先して実施することを徹底する。・研修医や非常勤医師についても、麻酔器および院内ルールに関する教育を充実する。・麻酔器使用前点検の結果が、部門サブシステム(ORSYS)に記録できるようなシステム改善を検討する。・麻酔器回路(ディスポ製品)の外観異常について、目視で確認するよう徹底する。・換気困難の発生時には、まずバッグバルブマスクに切り替えて、原因が機器側または患者側のいずれにあるのかを見極めることが重要であり、DOPEアプローチの対象を麻酔器にも拡大する。

事例検討結果
事例検討結果 当該事例については薬機法に基づき、不具合報告が提出されている。製造販売業者の調査により、吸気用の内管の一部がねじれている状態であることが確認され、回路の組立工程において、回路がひねりながら取り付けられたことが原因であると考えられた。 当該事象を受けて、製造手順書の改訂、全作業者への注意喚起及び抜き取り検査による品質試験基準の厳格化を実施した。 また、本事象について、2022年6月に公益社団法人日本麻酔科学会の学会ホームページにて情報提供されており、既に製造販売業者等による対策がとられているものと判断する。