事例報告内容
【記述項目】
《関連した薬剤》
一般名 インスリン ヒト(遺伝子組換え)注射液
販売名 ヒューマリンR注100単位/mL
剤型
規格単位(含有量、濃度) 100単位1mLバイアル
製造販売業者名 日本イーライリリー株式会社
事例の具体的な内容 6ヶ月前に肺炎、気管支拡張症で他院入院。人工呼吸管理、気管切開を経て呼吸器離脱しリハビリ目的にて前月に当院へ転院となった。しかし肺炎症状強く転院翌日に前医へ戻り、状態改善し再び当月に当院へ転院した。当日はA主治医(9年目)が不在のためB医師(5年目)が入院の受け入れを担当した。入院時の採血データでK6.8mEq/Lと高値のためB医師へパニック値の報告が入る。再検しても同様であり心電図上でT波増高を認めていたため緊急対応が必要であると判断したB医師はC医師(5年目)に応援要請、「今日の臨床サポート」のGI療法について供覧し、インスリンは10単位使用することを確認、対応を始める。14時前にA主治医が到着し、B医師から高カリウム血症に対応しているとの報告を受ける。A医師は他の医師がGI療法を実施できると思い、カルテからの情報収集を急いだ。C医師がベッドサイドで患者管理を担当。B医師は電子カルテにヒューマリンR 1V・5%ブドウ糖液500mL 1本・50%ブドウ糖液20mL 4本をオーダーし、届いた薬剤をB医師の隣でD医師(3年目)が吸い上げた。準備が終わりベッドサイドへ持って行き看護師が電子カルテで認証を行っているが、オーダーとラベルの内容自体は合致しているため認証された。認証後、点滴ボトルをC医師が受け取りヒューマリンR1000単位入りの点滴投与を開始、全量を1時間で投与する速度に手動で滴下数を調整し開始した。約10分後、カルテを見ていたA主治医がヒューマリンRが1Vでオーダーされていることに気付き、何単位を混注しているかB医師に確認、そこでB医師も過剰投与している可能性があることに気づいた。ベッドサイドへ行き点滴を確認、中止し生食へ変更、血糖測定を行った。ほぼ同時刻、看護師がナースステーション内のワゴンの上に置かれている、医師が吸い上げた薬剤を確認したところ、ヒューマリンのバイアルが空であることに気付きベッドサイドの医師に確認した。点滴ボトルを計量し、インスリンは27単位前後が約10分間で投与されたことが推測された。
事例が発生した背景・要因 1.管理に注意を要する患者の転院時、リハビリテーション科医長は終日、上級医は午前中が不在であった(当日を避けたかったが、前医と家族の都合が調整つかずやむを得ず当日に受け入れた)。2.上級医は「高カリウム血症に対し対応している」と報告を受けていたが、以前に在籍した当事者と同年代の医師がGI療法を実施することが出来ていたため、当事者達もできると思い理解して実施しているかを確認しなかった。3.電子カルテ上、インスリンのオーダーでは「V」「U」を選択するプルダウンがあり、どちらでもオーダーすることができる仕様である。1Vでオーダーすると画面内に「1回の制限量を超えています」「1日の制限量を超えています」というアラートが出るが文字数が多く読まなかった。4.インスリンバイアルが薬剤科から払い出される際には、専用シリンジを使用するようシリンジの写真が載った注意喚起の用紙が同封されているが、見ていなかった。5.医師がインスリンを吸い上げる際、看護師が専用シリンジを手渡しているが、1Vを吸うには容量が足りないため10ccシリンジを取り出して使用した。6.実施前に複数の医師で「今日の臨床サポート」に記載されている「GI療法」を供覧し10単位を混注することは確認していたが、実際に処方箋を確認して吸い上げる際には失念しており、処方箋通りに1Vを吸い上げた。7.準備時に隣に他の医師もいたがダブルチェックは行わなかった。8.上級医以外の医師は、過去にGI療法の経験があったが数回程度もしくはオーダーはしたことがあるが吸い上げは看護師が行うため、実際の薬剤を扱うのは初めてであった。9.ベッドサイドで認証を行った看護師は、医師が準備したものであるため内容の確認はせずに認証作業を行った。看護師が輸液ポンプを準備したが、1時間で投与する方針であったため医師が付いてフリーで投与し、看護師がセットから投与までの過程に関与せず確認できるポイントがなかった。10.上級医以外は今年度の新採用医師であるが、新採用者オリエンテーションの他に病院としての教育計画はなく、科に任されている。11.前医入院中にも高カリウム血症の変動が大きくその都度内服で対応されていた経緯があったが精査はされてないようであり、情報提供書にも詳細は記載されておらず転院前の最終採血は一週間前の(K3.5)であった。そのため、前回値から急激に上昇していることで焦って対応した。
実施した、若しくは考えられる改善策 1.知識や経験のない(少ない)治療においては、曖昧なまま実施せずオーダー内容も含めて必ず上級医に確認する。表示されたアラートをきちんと読み理解して次に進む。2.薬液の吸い上げなど慣れない手技はタイムプレッシャー下では行わない。3.ハイリスク薬を扱う際には医師もダブルチェックを必ず行う。4.少しでも違和感を感じた際には、お互いに声に出し合い確認する。5.看護師は誰が準備した物であっても患者に投与する前に6Rの確認を怠らず、定められたルールを徹底する。6.薬剤科はインスリンバイアルに同封する注意喚起の用紙をA4サイズまで大きくし、専用シリンジと共に同封する。7.診療科会にて電子カルテを実際に使用し、オーダー画面の注意、注意喚起が同封されるインスリンバイアルの払い出し時の実物を共有し、リスクマネジメントマニュアルの該当ページを全員が読む。8.看護師長会議、看護部リスク部会で実際の処方箋やバイアルを供覧、リスクマネジメントマニュアルの再確認を行い、全スタッフに確実に周知する。9.医療安全管理委員会において、事例の共有、内容の検証、改善策を検討する。10.病院教育研修委員会と共働し、新採用医師にリスクマネジメントマニュアルなどを活用した教育体制を検討する。

事例検討結果
事例検討結果 インスリンバイアル製剤については、汎用注射器を用いて調製することで、誤った量を調製し、投与する事例が繰り返し報告されていること、また、平成30年12月28日付事務連絡「医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアルの改訂について(別添)」により、「インスリンについては、単位とmL の誤認により重大な有害事象に繋がる危険性が高いため、専用シリンジの管理、使用についても併せて周知されたい。」ことが求められており、再発防止の観点から、インスリンバイアル製剤を調製する際には、汎用注射器では無く、インスリン専用注射器を用いる注意喚起が必要であることから、令和2年5月19日付薬生安発0519第1号「「使用上の注意」の改訂について」により添付文書改訂を指示したところ。また、PMDA医療安全情報No.23(令和2年11月改訂)「インスリンバイアル製剤の取扱い時の注意について(インスリン注射器の使用徹底)」により、医療機関等に注意喚起等しているところである。