事例報告内容
【記述項目】
《関連した薬剤》
一般名 インスリン ヒト(遺伝子組換え)注射液
販売名 ヒューマリンR注100単位
剤型
規格単位(含有量、濃度) 100単位1mLバイアル
製造販売業者名 日本イーライリリー
事例の具体的な内容 中咽頭癌CRT後に外来通院していたが,肺炎球菌性肺炎にて入院し,敗血症性ショックにより人工呼吸器管理となっていた患者。事例発生の16日前に心嚢液貯留による心肺停止があり,救命措置を行い蘇生し,集中治療室に入室した。同日,右内頸静脈CVカテーテル先端の下大静脈穿破が確認され,開胸カテーテル抜去術が行われ,10日後に全身状態改善のため一般病棟へ転棟していた。合併症に2型糖尿病があり,エルネオパNF2号1500mLとヒューマリンR20単位24時間で投与していたが,低血糖のため,事例発生当日より,エルネオパNF2号1000mLとヒューマリンR15単位24時間へ指示変更があった。主治医より注射の変更指示を受け,病棟の総リーダー看護師とチームリーダー看護師が2人で注射を作成した。チームリーダー看護師はインスリン専用の注射器を使用することは認識していたが,形状等の記憶は曖昧であった。注射器収納棚にあった細い注射器(皮下用1mL注射器)を見つけ,これに違いないと思い使用した。注射指示票の「薬品名:ヒューマリンR注U-100(100単位/mL)10mL/瓶」,「数量・単位:15単位」の記載を見て,mLに計算する必要があると考えたが,100単位=1mLのところ,100単位=10mLと思い込み,1.5mLを吸い上げた。側にいた総リーダー看護師に計算式を読み上げ,吸い上げたヒューマリンR1.5mLを確認のため見せた。総リーダーは,読み上げられたとおりに注射指示票を確認し,間違いないと返答したが,自身単独で確認せず,かつ確認行為に集中していなかったため,誤った注射器を使用していることや,計算式が合っていないことに気が付かなかった。調剤済みの点滴を受け取った受け持ち看護師は,調剤済みのメインボトルをPDA認証し,11時に点滴切り替えを行った。同日17時30分頃より,患者に発汗著明,血圧上昇,開眼しているが焦点が合わず,呼びかけにも応じない症状が発現した。血糖測定を実施したところ,血糖15mg/dLだったため,医師へ報告し,50%グルコース20mL2本を静脈注射した。その後,血糖82mg/dLへ上昇し,発汗軽減,呼びかけにも応じられるようになった。19時50分に糖尿病内科の指示で,点滴をソルデム3Aに変更した。21時に血糖42mg/dLと再度低血糖となったため,医師へ報告し,50%グルコース20mL1本を静脈注射し,血糖81mg/dLへ回復した。以後,3時間ごとの血糖測定指示を受け,翌朝まで低血糖症状はなく,全身状態も問題なく経過した。
事例が発生した背景・要因 後日,既設の委員会で審議した。注射準備の際に明らかなインスリン単位の誤解があったが,低血糖による障害の程度は中程度であった。
実施した、若しくは考えられる改善策 既設の委員会で審議した結果,現在の教育体制では不十分と考えられるため,看護師に対する再教育を徹底する。

事例検討結果
事例検討結果 インスリンバイアル製剤については、汎用注射器を用いて調製することで、誤った量を調製し、投与する事例が繰り返し報告されていること、また、平成30年12月28日付事務連絡「医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアルの改訂について(別添)」により、「インスリンについては、単位とmL の誤認により重大な有害事象に繋がる危険性が高いため、専用シリンジの管理、使用についても併せて周知されたい。」ことが求められており、再発防止の観点から、インスリンバイアル製剤を調製する際には、汎用注射器では無く、インスリン専用注射器を用いる注意喚起が必要であることから、令和2年5月19日付薬生安発0519第1号「「使用上の注意」の改訂について」により添付文書改訂を指示したところ。また、PMDA医療安全情報No.23(令和2年11月改訂)「インスリンバイアル製剤の取扱い時の注意について(インスリン注射器の使用徹底)」により、医療機関等に注意喚起等しているところである。