【記述項目】 |
《関連した薬剤》 |
一般名 |
インスリン ヒト(遺伝子組換え)
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販売名 |
ヒューマリンR注100単位/mL
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剤型 |
注
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規格単位(含有量、濃度) |
100単位/mL
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製造販売業者名 |
日本イーライリリー株式会社
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事例の具体的な内容 |
右第5足趾糖尿病壊疽に対し皮膚科で加療中の患者に、糖尿病・代謝・内分泌内科が血糖コントロールのため併診していた。骨髄炎増悪を疑い、抗菌薬と持続点滴を開始し、糖尿病内科医師がリプラス1号輸液にヒューマリンR注100単位/mLを1単位混注して20mL/hで投与するよう指示した。先輩看護師Aは、処置台に注射伝票を置き、1年目看護師B(職種経験年数0年10ヶ月)にリプラス1号輸液にヒューマリンR注を混注するよう伝えた。その際、看護師Aは、看護師Bへバイアル製剤のインスリンの取り扱いの経験について確認しなかった。すぐに実施する必要があるため、看護師Aは輸液ポンプを準備するなど他の対応をしていた。そのため、看護師Bは質問しにくい状況であった。看護師Bは、冷蔵庫から開封済みのヒューマリンR注100単位/mLのバイアルを取り出し、1バイアルが1単位と思い込み、10mLシリンジで全量(開封済のため吸引量は不明)を吸引後、リプラス1号輸液に混注した。その後、輸液ポンプを使用し、20mL/hで投与を開始した。40分後に患者が低血糖症状を訴え、ブドウ糖を内服したが、血糖値は上昇せず意識レベルも低下した。低血糖が遷延したため、ブドウ糖液を静脈注射し、持続輸液をブドウ糖輸液に変更したところ、意識レベルは改善し、徐々に血糖値も正常化した。低血糖時のインスリンの検査値が70μU/mLと異常高値であり、ヒューマリンR注が過剰に投与されたことが判明した。
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事例が発生した背景・要因 |
・ 1年目看護師Bは、インスリンのバイアル製剤の取り扱いが初めてであった。
・ 看護師Bは、ヒューマリンR注がインスリンであることを理解しておらず、混注する際に、ロードーズではなく10mLシリンジを使用した。
・ 院内では、1人で1回目と2回目で確認の方向を逆にして2回確認することをダブルチェックとして推奨しており、注射伝票と手に持った薬剤とで交互に確認するダブルチェックを行うことになっている。
・ 今回、1年目看護師Bは投与する単位数や吸い上げた量などの確認をしておらず、また、吸い上げたインスリン量を混注する前に先輩看護師Aに確認してもらっていなかった。
・ 新人看護師は自立するまで先輩看護師とともに注射薬を調製し、確認されたのちに投与するが、本事例でインスリンを調製した看護師Bは、点滴の調製手技は自立していた。
・ 入職時の新人看護師研修では、インスリンに関する内容も取り入れ、ナーシングスキルを活用した自己学習も各自で行うよう説明している。
・ インスリンのバイアル製剤は専用注射器(ロードーズ)で吸い上げるよう院内全体に教育、啓発している。
・ 今回の事例が発生した病棟は皮膚運動器病棟で、インスリンのバイアル製剤を点滴内に混注して投与することが少ない。
・ インスリンのバイアル製剤は、専用注射器(ロードーズ)を使用するよう各病棟の冷蔵庫内のインスリン保管場所に掲示していたが、貼付場所は統一されておらず、はがれている部署もあった。
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実施した、若しくは考えられる改善策 |
・ 点滴調製時は、ダブルチェックを行う。
・ インスリンはロードーズを使用するよう掲示を強化する。色合いを鮮明にしたポスターを作成し、各部署にインスリンの保管箱とポスターを配布した。インスリンの保管場所も院内で統一した。
・ 近年、インスリン投与はペン型が主流になっており、1単位の量を目で見て投与することが少ないことも1つの背景と考え、1単位が0.01mLであることを目視できるよう写真付きの回覧資料を作成し、啓発した。
・ インスリンについての新人教育を強化する。具体的には、薬剤部から新人医師・看護師を対象に「注意を要する医薬品について」の講義を配信し受講を促した。さらに各部署では、実地指導者中心にインスリンに関する指導を、習熟度に合わせて実施することにした。
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