事例報告内容
【記述項目】
《関連した薬剤》
一般名 インスリン ヒト(遺伝子組換え)
販売名 ヒューマリンR注100単位/mL
剤型
規格単位(含有量、濃度) 100単位/mL
製造販売業者名 日本イーライリリー株式会社
事例の具体的な内容 患者は事故当日が初回透析であった。その日は3時間透析の指示。透析1.5時間経過時点で、担当看護師Aが主治医より透析中に1時間かけて50%ブドウ糖液200mL・リメファー3B注射液1管・ヒューマリンR15単位の輸液を半量施行する指示を受けた。 担当看護師Aが休憩に入るため、残り番の入院担当看護師Bに点滴の準備・開始を依頼、遅出の看護師Cが薬品を薬剤科へ受け取りに行った。 遅出看護師Cより薬品を受け取った看護師Bは輸液を混注し、薬札を確認しながら薬品確認をした。認証は手伝いに来た他の入院担当看護師Dがラベルと薬品を照合してミキシング前に認証作業を実施した。看護師Bはミキシングの際、薬品の中にインスリン製剤があるという認識がありながらも、ヒューマリンRを全量(1000単位)を10mLシリンジに吸い、ダブルチェックは行わずセットした輸液に混注した。 患者のもとへ行き、そのまま透析回路より200mL/hで投与を開始した。薬品を受け取りに行った看護師Cが、インスリン混注用のシリンジの有無(部署内にあったかどうか)を看護師Bに確認したところで混注した薬品がインスリン製剤であることに気付き、投与開始薬1分後に輸液投与を中止した。
事例が発生した背景・要因 ・血液浄化センター内の入院患者用フロアを3名のスタッフで担当していた。・9時20分より午前の入院患者5名が順次入室予定であったが、事前の情報収集にて5名全員が発熱をしており、熱源の確認やCOVID-19検査の対象であるかの判断を当番医師に確認してからの入室であった。そのうちの3名はセンターでの透析が可能と判断され、約30分遅れで順次入室となった。1名の患者はPCR検査が必要との判断で、午後からの透析に変更され、午前透析枠が空いたので、その日に透析導入予定であった当該患者が繰り上げで入室となった。その後、もう1名の患者が約2時間遅れで入室と、当初の予定とは全く異なる入室状況となっていたため、精神的なゆとりがなかった。・ハイリスク薬に登録されている薬剤は処方箋の薬品名の頭に〈HR〉の記号をつけ、ハイリスク薬であることが認識できるようにしている。 ヒューマリンRは重点管理ハイリスク薬であり、取り扱い時は看護師2名で患者氏名と投与量を指差し呼称し、指示通りであるか確認(6Rの確認)とインスリン専用シリンジを使用して調剤する手順があるが守られておらず、確認方法が不十分であった。・看護師Bはインスリンはインスリン専用シリンジで吸い上げることを知らなかった。・医療安全管理マニュアルや薬剤関連マニュアルにハイリスク薬についての項目(インスリン製剤の安全な取り扱いについて)があり、薬効や保管、低血糖とその対応などについて記載されている。本事例に関することでは、バイアル製剤を使用する際、インスリン製剤の専用シリンジで吸引して混注する、6Rに準じてダブルチェックを行うという記載があるが、守られなかった。
実施した、若しくは考えられる改善策 ・輸液のミキシングや投与をする際、医師が処方した薬品や指示量を処方箋で確認しながら指差呼称する。・また処方された薬剤がハイリスク薬かどうかの確認も同時に行い、該当薬品であった場合はダブルチェックを行う。

事例検討結果
事例検討結果 インスリンバイアル製剤については、汎用注射器を用いて調製することで、誤った量を調製し、投与する事例が繰り返し報告されていること、また、平成30年12月28日付事務連絡「医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアルの改訂について(別添)」により、「インスリンについては、単位とmL の誤認により重大な有害事象に繋がる危険性が高いため、専用シリンジの管理、使用についても併せて周知されたい。」ことが求められており、再発防止の観点から、インスリンバイアル製剤を調製する際には、汎用注射器では無く、インスリン専用注射器を用いる注意喚起が必要であることから、令和2年5月19日付薬生安発0519第1号「「使用上の注意」の改訂について」により添付文書改訂を指示したところ。また、PMDA医療安全情報No.23(令和2年11月改訂)「インスリンバイアル製剤の取扱い時の注意について(インスリン注射器の使用徹底)」により、医療機関等に注意喚起等しているところである。