【記述項目】 |
《関連した薬剤》 |
一般名 |
インスリン ヒト(遺伝子組換え)
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販売名 |
ヒューマリンR注100単位/mL
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剤型 |
注
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規格単位(含有量、濃度) |
100単位/mL
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製造販売業者名 |
日本イーライリリー株式会社
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事例の具体的な内容 |
1.意識障害を主訴に救急車で搬送されてきた。来院時意識は回復していたが、バイタルサインはHR10-20と徐脈、Bp60台であり、血液検査結果より腎機能低下、高血糖、高カリウム血症を認め、利尿剤を併用した輸液療法と血糖コントロール治療が開始された。2.医師の口頭指示にて初回、生食500mlにヒューマリンR10単位を混注した輸液を30分で投与する指示があり、実施した。3.10分後に医師より新たにヒューマリンRを0.1単位/kgで投与開始するように口頭指示があり、看護師は医師と共に患者の体重を50kgで計算し、5単位/hと割り出した。この時、看護師は5ml/hと受け止めた。4.看護師は原液のままインスリン投与を疑問に思い先輩看護師に相談し、先輩看護師が「原液のままいくのですか?薄めずにいくのですか?」と質問したが、医師は「5(単位)でよい」と言ったため、30mlの注射用シリンジにヒューマリンR10mlを吸い上げ、シリンジポンプにセットして5ml/hで開始した。5.1時間30分後に追加で開始したシリンジポンプのヒューマリンRが終了したため、看護師が医師に「残量がなくなったらOffでよいのか」と聞いたところ、医師から追加のヒューマリンRは「Offでよい」と言われ終了とした。6.乳酸値再検のため血ガスを採血し、血糖32mg/dlであったため、50%ブドウ糖液20mlを静注した。この時、患者の意識レベルの低下は認められなかった。7.1時間後に一般病棟へ入院する。主治医から血糖4検の指示が出された。8.2時間後の血糖検査にて血糖値42mg/dlのため、50%ブドウ糖液20mlを静注した。夕食は全量摂取し、意識レベルの低下は認められなかった。9.1時間後に主治医が患者の状態を確認しに病棟へ来棟し、低血糖が続くことに疑問を持ち、記録・指示をさかのぼってチェックしたところ、インスリン原液投与の記録を発見し、インスリン過剰投与が発覚した。
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事例が発生した背景・要因 |
1.指示を出した医師はヒューマリンRを0.1単位/kgで投与するように指示したが、看護師は、今まで高カリウム血症に対するGI療法はインスリンを希釈しシリンジポンプで投与していたため、医師からの口頭指示を0.1ml/kgと受け取った。2.医師と看護師が一緒に患者の体重で投与量を計算しているが、「数字」のみでやり取りし、会話の中に単位がついていないため、医師は5単位/hと認識して「5でよい」と言ったことが、看護師は5ml/hと認識し、お互いが単位の認識が間違っていることに気づけなかった。3.医師は、看護師から原液のままでよいかと尋ねられた際、「5(単位)でよい」と指示しているので、原液で投与する予定であった可能性がある。4.看護師は、5ml/hで投与するにはインスリンの量が多いのではと疑問に思っていたが、インスリンの投与は「単位」で投与するもので、「ml」で投与するものではないことに気づかず、医師の指示が0.1mlではなく0.1単位であることに気づけなかった。さらに、インスリンは専用の注射器を使用することは表示されていることはわかっていたにも関わらず、単位で投与すること気づけなかった。5.医師は、非常勤医師であったため、当院でのGI療法が生食49.5mlとヒューマリンR50単位の1単位/mlの組成で実施されることを知らなかった。そのため、看護師の「原液のままいくのか」という質問に対して疑問を持たなかった。また、単位をつけずに数字だけで「5のままでよい」口頭指示を出した。6.看護師はGI療法を行っている患者を担当したことがあり、ヒューマリンRを原液で5ml/hで投与することに疑問を感じ、医師へ質問しているが、「5のままでよい」という返答に対して看護師は何ら自分の疑問が解決していないにもかかわらず、再度聞き直したり他のリーダー看護師や診療看護師に確認することをせずに、そのまま投与した。7.口頭指示に対して、メモをとり内容を確認することを怠った。口頭だけでやり取りしたため、認識間違いに気づけなかった。8.インスリンの過剰投与による低血糖が、患者の生命を危険にする恐ろしさに対する知識が不足しており、そのまま投与してしまった。
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実施した、若しくは考えられる改善策 |
1.指示を出す側、指示を受ける側は必ず単位まで明確にする。2.口頭指示は必ずメモにその内容を記載し、医師に指示内容と準備した薬剤を見せながら相違がないことを確認することを徹底させる。3.医師への報告や確認は、必ず自分の意見を言い、具体的に内容を伝え確認する。疑問が解決しない場合は言い方を変えて再度質問する方法を指導する。4.当院におけるGI療法の組成を表示し、確認できるようにするとともに、オーダー入力する際にセット化し、統一された指示が出せるようにする。5.インスリン投与に関する研修を看護師全員に向けて行い、インスリン投与は「単位」で行うことを知識として構築させる。
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