事例報告内容
【記述項目】
《関連した薬剤》
一般名 インスリン ヒト(遺伝子組換え)
販売名 ヒューマリンR注100単位/mL
剤型
規格単位(含有量、濃度) 100単位/mL
製造販売業者名 日本イーライリリー株式会社
事例の具体的な内容 救急処置室に入室時、意識レベルは痛み刺激に顔をしかめるなどされ、指示従命は困難でJCS30程度、血圧は座位で測定不能で、臥位で血圧測定可能となり、110/73。呼吸はされていた。簡易血糖測定器でHiの表示であり、静脈血液ガスで血糖値765と著明に高値であった。高度脱水、高血糖であり、高血糖高浸透圧症候群が疑われた。早期の点滴治療開始とインスリン静脈投与開始が望ましく、看護師に生食点滴とヒューマリンR10単位の静注を指示した。看護師よりヒューマリンR10単位と口頭で確認されながら、ヒューマリンR1mLを吸引した注射器を受け取った。普段使用しているインスリン注射器(インスリン専用シリンジ:BDロードーズ)と違うことに気付かず静注した。投与後、別の看護師が空の注射器(1mLシリンジ)を見て、ヒューマリンRの投与量が異なっていることに気がついた。注射器のmLを確認すると普段使用している注射器と異なり、10倍量投与したことが判明した。ヒューマリンRの作用時間を考慮すると、早期に急激効果が現れる可能性が考えにくく、その他の意識障害と高血糖高浸透圧症候群の原因検索目的でCTに向かうこととした。CT移動中はモニターで血圧・脈拍の確認がとれず、大腿動脈触知すると触知できたためSBP80-90はあったと想定される。頭部CT施行中に意識レベルJCS200に悪化したため、頭部CTのみで中断し、ICU医師に状況連絡し応援依頼した。リザーバーマスク酸素10L投与開始、脱水によるショックバイタル進行を認めたため、末梢ルートを追加で確保し輸液量を増やした。その間に来院されていた長女に経過とヒューマリンRの単位数間違いがあったことを説明し、謝罪するとともに、ICU入室の上厳重管理をさせて頂きたい旨に同意を得られた。その間、ICU当直医により点滴治療継続頂き、血圧や呼吸状態、意識状態は改善傾向となった。血糖値は急激下降しないように簡易血糖測定器で15分毎、採血で1時間毎にチェックすることとした。
事例が発生した背景・要因 インスリン単位数で指示しており、mlの単位で確認できていなかった。 インスリン専用のシリンジ(BDロードーズ)を保管場所から見つけることができなかった。 渡されたインスリンが入った注射器の量が間違っていないと思い込んだ可能性が考えられる。
実施した、若しくは考えられる改善策 投与者が自身でインスリンを吸引する。 トリプルチェック以上の口頭・目視確認を行う。 インスリン静注ではなく、インスリンを生理食塩水の点滴に混注して点滴投与する方法に統一して施行する。

事例検討結果
事例検討結果 インスリンバイアル製剤については、汎用注射器を用いて調製することで、誤った量を調製し、投与する事例が繰り返し報告されていること、また、平成30年12月28日付事務連絡「医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアルの改訂について(別添)」より、「インスリンについては、単位とmL の誤認により重大な有害事象に繋がる危険性が高いため、専用シリンジの管理、使用についても併せて周知されたい。」ことが求められており、再発防止の観点から、インスリンバイアル製剤を調製する際には、汎用注射器では無く、インスリン専用注射器を用いる注意喚起が必要であると考える。